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ブログ 2024.04.10

このプロジェクトがどうして生まれたのか -リンクする2つのストーリー

【2つ目のストーリー:元JICAボランティア 助産師 羽生 悦子の想い】

私の勤務していた病院は、州内で一番大きな病院で、他の病院やヘルスセンターから、難産のお母さんや具合の悪い赤ちゃんが、毎日のように搬送されてきました。

 

 

ある日、トンレサップ川の向こう側のコンポンレーンという地区のヘルスセンターから、妊婦さんの搬送要請があり、病棟の助産師と一緒に船着き場まで救急車で迎えに行きました。

 

ところが待てど暮らせど、妊婦さんは一向にやってきません。1時間以上待ち、ようやく小さなボートに乗せられて川向うからやってきた妊婦さんは、けいれん発作をおこしており、意識がなく、男性4人に抱えられて、ボートから救急車へ運びこまれました。

 

 

本当に衝撃的な光景で、今でも忘れることがありません。

 

どうしてこんなに悪い状態なんだろう?どうしてこんなに搬送に時間がかかるんだろう?

と、疑問を抱いたことが、コンポンレーン地区に関心を持ったきっかけでした。

 

 

コンポンチュナン州で生活した2年間で、地域の特徴についても少しずつ分かってきました。

  • コンポンレーンには病院がなく、ヘルスセンターの看護師や助産師が地域住民の健康管理を担っている
  • カンボジアでは未だに経済格差が大きく、同地区においても川を渡って州病院を受診するための20~30ドルの交通費を工面することが難しい人がいる
  • 経済的な事情で仕事を休めない、ヘルスセンターが遠いなどの事情で妊婦健診を受けられない妊婦さんがいる
  • 州都に渡るために車ごと乗れるフェリーが1時間に1回程度出ているけれど、車がいっぱいなるまで出発しないので、緊急時や夜間は漁業用の個人所有のボートと交渉して乗せてもらう必要がある
  • 雨季には地区内のあちこちで冠水が起こり、移動に大きな制限が生じる

これらの経済面や地域の特徴に起因する課題により、妊婦さんは受診行動を取りにくい環境で生活をしています。

 

 

隊員活動も終盤となったある日、コンポンレーン地区から搬送された妊婦さんと同じけいれん発作の症状を起こした妊婦さんが、私の病院へ運び込まれました。帝王切開で分娩となりましたが、すでに赤ちゃんは亡くなっていて、お母さんも出血が止まらずに亡くなりました。

 

二人が亡くなったことへの悲しみ、カンボジアの医療に対するもどかしさ、何もできなかった自分への無力感・罪悪感など複雑な気持ちで落ち込みました。数日が経ち、ただ落ち込むのばかりでなく、自分にできることを考えるようになりました。

 

 

地域の助産師やヘルスボランティアと共に、妊婦さんが自分自身で体調管理ができ、健康に妊娠期を過ごせるようサポートをすること、異常な症状が出た場合には、一分一秒でも早く受診行動を取るよう注意喚起をしたり、日頃からの準備を促すための活動をしたいと考えています。私が出来ることは小さいことかもできませんが、それでも助産師として自分にできることを模索していくことが亡くなった二人に報いることになると信じています。

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